この記事の結論
経理や勤怠のように、どの会社でもやり方が変わらない業務は、SaaS(月額で使う既製のクラウドサービス)で十分です。一方、受注の受け方やお客様への対応など、やり方そのものが自社の強みになっている業務は、SaaSに合わせると強みを手放すことになります。AIを使った開発で、業務に合わせたシステムを以前より手軽に作れるようになりました。判断の基準は「費用」から「その業務を自社のやり方で続けたいか」に移っています。
以前は、SaaSに業務を合わせるしかなかった
自社専用のシステムを作るには、長い期間と大きな費用がかかりました。作れるのは、一部の大きな会社だけでした。
そこに登場したのがSaaSです。契約すればすぐに使え、改良も提供会社が続けてくれます。多くの会社にとって、業務システムといえばSaaSを選ぶもの、という時代が続きました。
ただ、SaaSは多くの会社に共通するやり方に合わせて作られています。自社のやり方と合わない部分は、業務の側を変えるか、Excelや手作業で補うしかありません。「便利にはなったけれど、うちの業務には合わない」というもどかしさは、ここから生まれます。
今は、AIを使った開発で、業務に合わせたシステムを少人数で速く作れるようになりました。「SaaSに合わせる」以外の選択肢が、中小企業にも現実的になっています。だからこそ、どの業務をSaaSに任せ、どの業務を自社に合わせて作るかの見極めが大切です。
判断は、3つの問いで決まる
1. その業務は、他社と同じやり方でいいか
経理、勤怠、給与、名刺管理のように、どの会社でもやり方が大きく変わらない業務は、SaaSが向いています。やり方を自社で工夫しても、売上の差にはつながりにくいからです。
一方、受注の受け方、見積もりの出し方、お客様への連絡の仕方などに、自社ならではの工夫があって、それが選ばれる理由になっている場合があります。その業務をSaaSの型に合わせると、強みを手放すことになります。ここはオーダーメイドを検討する価値があります。
業種ごとに見ると、たとえば次のような業務に、自社ならではのやり方が残りやすい傾向があります。
| 業種の例 | SaaSで足りやすい業務 | 自社のやり方が残りやすい業務 |
|---|---|---|
| 製造業 | 経理、勤怠 | 受注から工程・納期の管理、見積もりの計算 |
| 不動産 | 経理、勤怠 | 物件とお客様の組み合わせ、案内の段取り |
| 医院・サロン | 会計 | 予約の取り方、来院・来店後のフォロー |
| 士業・コンサルティング | 会計、請求 | 案件ごとの進み具合と、書類の管理 |
どれも業種の一般論です。同じ業種でも、会社によって強みがある業務は違います。製造業で、システムを考える前に見積もりや加工の記録をどう整えるかは、東大阪の町工場が、Webで新しい取引先に見つけてもらうために最初に整えることでも触れています。
2. SaaSに合わせるための手作業が、どれだけ増えるか
SaaSを入れたのに、足りない部分をExcelで補い、2つの画面に同じ内容を入力し直している。こうした状態は珍しくありません。
導入で減った手間より、合わせるために増えた手間のほうが大きいなら、そのSaaSは業務に合っていません。誰が、週に何時間、何のために二重入力をしているかを書き出すと、判断がはっきりします。
3. データを自社で持ち、他とつなぐ必要があるか
顧客や取引の記録を、他のシステムや分析に使いたい場合は、データを取り出せるかが重要です。SaaSによっては、CSVでの出力や、外部とつなぐ仕組み(API)が限られていることがあります。
契約前に「必要なデータを、必要な形で、いつでも取り出せるか」を確認しておくと、後で身動きが取れなくなるのを防げます。
SaaSとオーダーメイドの違い
| 観点 | SaaS | オーダーメイド |
|---|---|---|
| 使い始めるまで | 契約後すぐ | 設計と開発の期間が必要 |
| 費用のかかり方 | 月額。利用人数や機能で増えることが多い | 最初の開発費が大きく、その後は保守費 |
| 業務との合い方 | 業務をサービスに合わせる | サービスを業務に合わせる |
| 変更したいとき | 提供会社の対応を待つ | 自社の判断で直せる |
| データ | 取り出せる範囲はサービス次第 | 自社で持ち、自由に使える |
| 続けられるか | 提供会社の終了・値上げの影響を受ける | 作った会社や担当者に頼りきりになる危険がある |
どちらにも、続けていくうえでの危険があります。SaaSは提供会社の都合に左右され、オーダーメイドは作った人がいなくなると直せなくなることがあります。
費用は、5年でかかる総額で比べる
SaaSとオーダーメイドを費用で比べるとき、「月額」と「開発費」をそのまま並べると判断を誤ります。どちらも、使い続ける間にかかる費用を足し合わせて比べます。目安として、5年ほど使う前提で考えると、違いが見えやすくなります。
| SaaSで足し合わせるもの | オーダーメイドで足し合わせるもの | |
|---|---|---|
| 最初に | 初期設定、データの移し替え、社内への説明 | 設計と開発、データの移し替え、社内への説明 |
| 毎月・毎年 | 月額に利用人数と期間を掛けた額、追加の機能やオプション | 保守、サーバーなどの運用費 |
| 途中で | 人数が増えたときの増額、値上げ | 業務が変わったときの改修 |
| やめるとき | 乗り換え先へのデータの移し替え | 作った会社から別の会社への引き継ぎ |
見落としやすいのは、表に出てこない費用です。SaaSに合わせるための手作業にかかる人の時間や、二重入力のミスを直す時間も、毎月のコストとして数えておくと、比べ方が正確になります。
迷ったときの判断の流れ
上の3つの問いを、順番に当てはめると次のようになります。
- その業務は、他社と同じやり方で困らないか → 困らないなら、まずSaaSを試す
- 試したSaaSで、合わせるための手作業が増えていないか → 増えていないなら、そのまま使う
- 手作業が増えている、またはやり方自体が自社の強み → 足りない部分だけを作ってつなぐ形を検討する
- つなぐだけでは足りず、業務の中心がSaaSに合わない → その業務をオーダーメイドで作る
いきなり4に進む必要はありません。1から順に確かめることで、作る範囲を必要な分だけに絞れます。
第三の選択肢:SaaSを使い、足りない部分だけ作る
実際には、「全部SaaS」か「全部オーダーメイド」かの二択ではありません。
たとえば、会計はSaaSのまま使い、自社の受注データを会計に自動で送る仕組みだけを作る。予約はSaaSで受け、予約が入ったら社内に通知して台帳に記録する部分だけを作る。標準的な部分はSaaSに任せ、自社ならではの部分と、つなぎの部分だけを作る方法です。
作る範囲が小さい分、費用も期間も抑えられます。SaaS側の改良もそのまま受けられます。業務システム選びで迷っている会社の多くには、まずこの形をおすすめしています。

私たちが、予約管理システムを自分たちで作った理由
私たちは、受託でシステムを作るだけでなく、多業種に対応した予約管理システムを自社プロダクトとして開発・運営しています。
作る側と、使ってもらう側の両方を経験して分かったのは、SaaSがうまくいくのは「多くの会社で共通する部分」を丁寧に作り込んだときで、会社ごとの違いまで全部を1つのサービスで吸収しようとすると、かえって使いにくくなる、ということです。だからこそ、自社の業務のどこが共通で、どこが自社ならではなのかを見分けることが、システム選びの出発点になります。
予約管理システムは、企画から運用まで自分たちで手がけています。技術責任者は、業務システムの要件定義から開発、保守運用までを経験しています。受託の相談でも、作る範囲を決める前に「SaaSで足りる部分」を一緒に確かめるのは、この経験からです(進め方はシステム開発のサービスにまとめています)。
オーダーメイドで作るなら、小さく始めて育てる
オーダーメイドと聞くと、何か月もかけて大きなシステムを作る姿を想像するかもしれません。今は、AIを使った開発で、画面の試作を早い段階で作り、実際に触りながら決めていく進め方ができるようになりました。
- 対象の業務を1つに絞る。 いちばん手間がかかっている、またはいちばん強みに関わる業務から始めます
- 試作を触って決める。 紙の仕様書だけで決めず、動く画面を見ながら「ここはこう使いたい」を固めます
- 使いながら直す。 実際の業務で使ってみると、必ず想定と違う点が出ます。それを直す期間を最初から見込んでおきます
- うまくいったら、隣の業務に広げる。 最初から全部を作らず、効果を確かめてから範囲を広げます
この進め方なら、最初の投資を抑えながら、業務に合っているかを早い段階で確かめられます。
オーダーメイドで失敗しやすいパターン
- 何を作るかが決まらないまま始める。 「今の業務を全部システムに」では、完成の基準が決まりません。どの作業の、何を減らしたいかを先に決めます
- SaaSにある機能まで作る。 ログイン、権限管理、帳票出力など、既製品で済む部分に費用をかけてしまいます
- 作った人しか直せない。 設計の記録や説明書が残っていないと、担当者が離れた時点で手が出せなくなります
- 保守の予算を取っていない。 作った後も、OSやブラウザの更新、法改正への対応が続きます
SaaSで失敗しやすいパターン
- 使わない機能のために高いプランを契約する。 必要な機能が上位プランにしかなく、他の大半は使わないまま、ということがあります
- 業務を無理に合わせて、Excelが増える。 上の「問い2」の状態です
- データを取り出せない。 乗り換えや分析をしようとしたときに初めて気づきます
- 人数が増えると費用が一気に増える。 利用人数で料金が決まるサービスは、将来の人数で試算しておきます
相談や見積もりの前に、準備しておくこと
SaaSを選ぶにしても、作るにしても、次の4つを書き出しておくと、比較と見積もりがずっと正確になります。
- 対象の業務の流れ(誰が、何を受けて、何をして、誰に渡すか)
- いまExcelや紙で管理しているもの
- そのシステムを使う人の人数と役割
- つなぎたい既存のシステム(会計、予約、顧客管理など)
完璧でなくて構いません。書き出す途中で、「ここはSaaSで十分」「ここだけは自社のやり方を残したい」という線が見えてくることが多いです。
よくある質問
小さな会社でも、オーダーメイドは現実的ですか?
SaaSを使い始めた後から、オーダーメイドに切り替えられますか?
SaaSの導入に、補助金は使えますか?
大阪・兵庫の会社ですが、相談できますか?
選ぶ基準は、システムではなく業務の側にある
SaaSかオーダーメイドかは、システムの良し悪しで決まるものではありません。自社の業務のどこが他社と同じで、どこが自社の強みなのか。その見分けがつけば、答えはほとんど決まります。
迷ったときは、まず業務の流れを書き出すところから始めてみてください。
ご相談
業務システムについて、いまの状況をお聞かせください。
「何から手をつければいいか分からない」という段階からで構いません。返信は担当者が直接お送りします。


