この記事の結論
業務システムのデータ移行とは、Excelの台帳や紙の伝票、今使っているシステムの中身を、新しいシステムの形に合わせて移し替えることです。
画面や機能を作る仕事とは別に、手間と日数がかかります。
移す前に決めておきたいのは、どのデータを移し、どれを古い形のまま残すか、移した中身を誰が確かめるか、いつ切り替えて、うまくいかなかったときにどう戻すかの4つです。
IPA(情報処理推進機構)の「非機能要求グレード2018」も、移行の時期・方式・対象・計画を、発注する側と開発する側で合意しておく項目に挙げ、最終的な移行結果の確認は発注する側が行う、としています。
Excelから移すときは、先頭の0が消える、16桁以上の番号の末尾が0に変わる、文字コードで文字化けする、といった崩れ方を先に知っておくと、確かめる場所が絞れます。
データ移行は、新しい画面を作る仕事とは別に数える
新しいシステムの相談では、話の中心はどうしても画面や機能になります。
入力の手間をどれだけ減らせるか、といった話です。
ところが、使い始める日の朝に必要なのは、画面よりも、今日までの顧客や受注や在庫が、新しいシステムに正しく入っていることです。
IPAは、システムに求めることのうち、機能以外のもの(非機能要求)を一覧にした「非機能要求グレード」を公開しています。
発注する側と開発する側の「認識の行き違い」を防ぐための道具で、事業は2018年度で終わっていて、最後の版が非機能要求グレード2018です(IPA:システム構築の上流工程強化(非機能要求グレード)紹介ページ、2026-10-06 確認)。
その中に「移行性」という大きな項目があり、移行時期、移行方式、移行対象(機器)、移行対象(データ)、移行計画に分かれています。
移す媒体の種類には、テープやディスクと並んで、紙の伝票類も数えられています(IPA:非機能要求グレード2018 改訂情報(改訂箇所を赤字にした活用シートを付録に収録)、2018年4月25日、2026-10-06 確認)。
大きなシステム向けの資料ですが、中小企業の業務システムでも、考えることの並びはそのまま使えます。
見積もりを読むときも、データの移行が作業に入っているか、入っているならどこまでか、を最初に見てください。
見積もりの比べ方は業務システムの見積もりの読み方に書きました。
何を移し、何を古い形のまま残すかを先に決める
移すデータは、少ないほど早く、間違いも減ります。
全部を移すのが当たり前と思われがちですが、私はまず「新しいシステムで、日々さわるデータはどれか」から数えるのがよいと考えています。
たとえば顧客の台帳は、今の取引先だけを移す。
過去10年分の受注は、新しいシステムには直近の分だけを入れ、それより古い分は今のExcelやシステムの書き出しを読み取り専用で残しておく。
こう分けるだけで、整える手間がかなり変わります。
ただし、古い形で残すと決めたデータも、捨ててよいわけではありません。
帳簿や契約に関わる記録のように、いつまで、どの形で残すかを確かめておきたいものもあります。
顧問の税理士などに確かめてから決めてください。
決めるときは、データの種類ごとに「移す・残す・捨てる」を1行ずつ書いていきます。
| データの種類 | 移すか | 残すなら、どこに | 移した後、誰が直すか |
|---|---|---|---|
| 顧客の台帳 | 今の取引先だけ移す | 今のExcelを読み取り専用で保管 | 営業の担当 |
| 受注の履歴 | 直近の分だけ移す | 今のシステムの書き出し(CSV) | 事務の担当 |
| 商品の一覧 | すべて移す | 残さない | 仕入れの担当 |
この表は架空の例です。
いちばん右の列が空くデータは、移した後に誰も責任を持てないので、移すかどうかをもう一度考えます。
Excelから移すときに、崩れやすいところ
Excelの台帳を新しいシステムに入れるときは、CSVというテキストの形で書き出すことが多くなります。
このとき崩れやすいところは、Microsoftの公式のヘルプに書かれています。
ひとつは、番号です。
Excelは、先頭の0を自動で消し、大きな数値を「1.23E+15」のような指数の表記に変えます。
有効桁数は15桁までで、16桁以上の数値は、15桁を超える部分が0に置き換わります(Microsoft サポート:先頭のゼロおよび大きい数値の保持、2026-10-06 確認)。
「0012」のような顧客番号や、郵便番号、0から始まる電話番号、長い管理番号は、書き出す前に文字として扱われているかを見ておきます。
もうひとつは、シートと書式です。
ブックをCSVなどのテキストの形で保存すると、書式はすべて消え、保存されるのは作業中のシート1枚だけです(Microsoft サポート:ブックをテキスト形式 (.txt または .csv) で保存する、2026-10-06 確認)。
セルの色で「休眠中」や「要注意」を表していた台帳は、その意味が書き出しの時点で消えます。
色で分けていたことは、列を1本足して文字で書いておきます。
文字コードも、つまずきやすいところです。
UTF-8という文字コードのCSVは、BOMという印を付けて保存されていればExcelでふつうに開けますが、そうでない場合は、データのタブから取り込む方法で開くよう案内されています(Microsoft サポート:Excel で CSV UTF-8 ファイルを正しく開くには、2026-10-06 確認)。
新しいシステムから書き出したCSVをExcelで開いて確かめるときに、文字化けして見えても、データそのものが壊れているとは限りません。
IPAの非機能要求グレードも、移すデータの形式として、アプリケーションに依存した形式やテーブルの形と並んで、文字コードを挙げています。
公式の資料には出てこない崩れ方もあります。
よくあるのは、同じ取引先が「株式会社」と「(株)」で2行に分かれている台帳です。
人が目で読むぶんには困りませんが、システムに入れると別の取引先として数えられます。
どちらの表記を残すかは、開発する側では決められません。
台帳を使っている人と一緒に決めます。
Excelでの管理がどこで限界になるかは、Excelでの業務管理が限界になったときの、7つのサインにまとめています。
移した中身を確かめるのは、頼む側の仕事になる
移す作業そのものは、開発会社に任せられます。
ただ、移した結果が正しいかを最後に確かめるのは、頼む側です。
非機能要求グレード2018は、移行作業の分担について、最終的な移行結果の確認は、どの段階を選んでもユーザー(発注する側)が実施する、としています。
共同で作業する場合は、古いシステムの移すデータの調査、データの抽出と変換、新しいシステムへの投入と確認、などの分担を決めておくよう求めています(IPA:非機能要求グレード2018 改訂情報、2026-10-06 確認)。
確かめ方は、難しいものでなくてかまいません。
移す前と後で、件数が合っているか。
売上や在庫の数量の合計が合っているか。
それから、よく知っている取引先を10件ほど選んで、新しいシステムの画面で1件ずつ見比べる。
確かめる人は、台帳をふだん使っている人にします。
何がおかしいかに気づけるのは、その台帳を毎日見ている人です。
その人の時間を、切り替えの前の週に空けておくことも、移行の計画に入れておきます。
切り替える日と、戻す道を決める
いつ新しいシステムに切り替えるかは、業務が止められる日から決まります。
非機能要求グレード2018の「移行のスケジュール」には、移行の期間、システムを止められる日時、並行稼働(古いものと新しいものを同時に動かすこと)の有無が並び、例外が起きたときの切り戻しの時間や、事前のバックアップの時間も含めること、と書かれています(IPA:非機能要求グレード2018 改訂情報、2026-10-06 確認)。
並行稼働は安心ですが、その間は同じ入力を2回することになります。
長く続けるほど、どちらが正しいのかが分からなくなるので、期間は先に区切ります。
戻す道は、切り替える前にしか作れません。
私たちは2026年9月に、自社のドメイン(www の付かない bundlyze.co.jp)の配信先を別のサービスへ移しました。
データの移行ではありませんが、考え方は同じです。
切り替える前に、書き換えるDNSの値と、触らない値を全部書き出して残し、元の値に戻す手順を先に書きました。
さらに、書き換えるAレコードの反映を待つ時間(TTL)を前もって300秒に下げておき、戻す必要が出ても数分で戻せる状態にしてから切り替えています。
DNSの値は、書き換えると元の値がどこにも残りません。
台帳のデータも同じで、移す直前の状態を書き出して保管しておかないと、移した後に「元はどうだったか」を確かめる方法がなくなります。
このときの作業はSSL証明書の期限切れ。
切れたときの直し方と、自動で更新される仕組みへの移し方に書いています。
顧客の情報を開発会社に渡すときに決めること
顧客の台帳を移すなら、移す作業の間、開発会社が個人情報を扱うことになります。
個人情報保護法は、個人データの漏えいや滅失などを防ぐために必要かつ適切な措置を取ること(23条)と、個人データの扱いを外部に委託する場合は、委託先を必要かつ適切に監督すること(25条)を、個人情報を扱う事業者に求めています(e-Gov法令検索:個人情報の保護に関する法律、2026-10-06 確認)。
実際に決めておきたいのは、データの渡し方と、移し終わった後に開発会社の手元に残る写しの消し方です。
メールに付けて送るのは避けます。
動作の確認には、本物の顧客の名前を使わず、名前や電話番号を置き換えた見本のデータで足りる場面も多くあります。
自社の場合にどこまで決めればよいかは、法律の専門家にも確かめてください。
相談の前に、移すデータについて書き出しておくこと
開発会社に相談する前に、次の表を埋めてみてください。
全部埋まらなくてもかまいません。
空いたところが、最初の打ち合わせで決めることになります。
| 確かめること | 書き出す中身 |
|---|---|
| 移す元 | Excelのファイル名、紙の帳票の名前、今のシステムの名前と契約先 |
| おおよその量 | 行数や件数のめやす(数百か、数万か) |
| 今も更新しているか | 毎日更新しているもの、もう止まっているもの |
| 書き出せるか | 今のシステムからCSVなどで取り出せるか、誰の権限で取り出すか |
| 止められる日 | 入力を止めてよい日や時間帯、繁忙期で避けたい月 |
| 確かめる人 | 移した後に中身を見比べる人と、その人が空けられる時間 |
| 個人情報 | 顧客の氏名や連絡先が入っているか |
| 残すデータ | 新しいシステムに入れず、古い形で残すもの |
今のシステムからデータを取り出せない、作った会社と連絡が取れない、という場合は、先にシステムを作った会社と連絡が取れないときの引き継ぎの手順を見てください。
取り出し方が決まらないうちは、移行の計画も立ちません。
この表のうち「書き出せるか」と「止められる日」が埋まると、移行にかかる手間と、切り替えの日の候補がおおよそ見えてきます。
新しいシステムに何をさせるかの整理と合わせて、業務システム開発のご相談の最初の打ち合わせで一緒に見ていけます。
要件の決め方は要件定義とはにまとめています。
台帳を1つ見ると、整える場所が具体的になる
移行の話は、説明を聞くより、実物を1つ見たほうが早く進みます。
いちばんよく使っている台帳を1つ開いて、列の数、表記のゆれ、セルの色の使い方を眺めるだけでも、どこを整える必要があるかが見えてきます。
まずは自社で1度、その台帳を新しい人に渡すつもりで見直してみてください。
よくある質問
いきなり全部を入れ替えず、小さく始められますか?
今使っているシステムやExcelを残したまま、新しいシステムとつなげられますか?
相談の前に、何を用意すればいいですか?
大阪や兵庫から離れた地域でも頼めますか?
bundlyzeは、大阪市北区のグラングリーン大阪を拠点に、大阪・兵庫を中心とした関西の会社の業務システムの開発と、Excelや今のシステムからのデータの移行を受け持っていて、打ち合わせはWeb会議でも対面でもできます。
この記事を書いた津嘉山は、業務システム開発とAWSを専門とするエンジニアで、業務システムの要件定義から開発、保守運用までを経験しています。
ご相談
業務システムについて、いまの状況をお聞かせください。
「何から手をつければいいか分からない」という段階からで構いません。返信は担当者が直接お送りします。
