この記事の結論
クラウド移行は、社内に置いたサーバーで動かしているシステムやデータを、インターネットの向こうのクラウドの環境へ移すことです。
始めるのは、移し方を選ぶことではなく、今あるものの棚卸しです。
サーバー、動いているソフト、データ、つながっている先、契約の名義、バックアップを書き出します。
移し方は大きく3つで、そのまま移す、作りを少し直して移す、作り直す、です。
進め方は、試しに1つ移す、新旧を並べて動かす、切り替える、古い環境を片づける、の順にします。
費用は、移すための作業費と、移したあとに毎月かかる利用料・運用費に分けて考えます。
どちらも、台数、データの量、止められる時間、つながっている先の数で変わります。
「社内の
「保守の
クラウド移行の相談は、たいていこのどちらかから始まります。
この記事では、社内のシステムやサーバーをクラウドへ移すときの進め方と、費用が何で決まるかに絞って書きます。
ホームページを別のサーバーへ移すときの確認はホームページのサーバーを移すとき、検索・メール・フォームを止めないために確かめることに、業務システムを入れ替えるときのデータの移し方は業務システムを入れ替えるときのデータ移行にまとめています。
クラウド移行とは、自社で持つ機械から、借りて使う環境へ移すこと
社内や自社で借りた場所に機械を置き、自社で調達して保守する形を「オンプレミス」と
クラウドは、インターネットを通じて、ソフトや機械の力を借りて使う形です。
IPA(情報処理推進機構)が
一方で、気をつけることとして、データを自社の管理の外に置くこと、利用量が意図せず増えて使用料が急に増えること、作りを自由に変えにくいこと、ほかのシステムとのつなぎに制約や費用がかかることも挙げています(IPA:中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインの付録7「中小企業の
クラウドには、機械だけを借りる形から、ソフトまで出来上がったものを使う形まであります。
同じ説明資料は、機械だけを借りる形(IaaS)、
社内のサーバーで動いているシステムを移すときは、どの形に移すかで、移したあとに自社に残る仕事が変わります。
移す前に、今あるものを棚卸しする
移し方を選ぶ前に、今あるものを書き出します。
私は、次の6つを表にするところから始めます。
| 書き出すもの | 中身の例 | 見落としやすいところ |
|---|---|---|
| サーバー | 台数、置き場所、OSの種類と版、保守の期限 | 誰も使っていないのに動いている古い機械 |
| 動いているソフト | 業務システム、データベース、ファイルの共有、メール | 前の担当者が入れた小さな仕組みや、夜中に動く処理 |
| データ | 量、置き場所、増え方、個人情報を含むか | 共有フォルダの奥にある、毎月の集計に使う表 |
| つながっている先 | 会計ソフト、取引先とのやり取り、社内の複合機、拠点の回線 | 決まった住所(IPアドレス)から |
| 名義と契約 | 機械やソフトの契約の名義、保守の契約、ライセンスの数え方 | 作った会社の名義のままの契約や、機械の台数で数えるライセンス |
| バックアップ | 何を、どこへ、どれくらいの間隔で取っているか | 取っているが、戻せるかを試したことがない |
いちばん抜けやすいのは、
社内のサーバーは、社内の回線の中にあるのが前提で作られていることが多く、外へ出したとたんに、複合機や拠点からつながらなくなることがあります。
名義と契約も、移す前に確かめます。
作った会社の名義になっているソフトや、機械の台数で数えるライセンスは、そのままクラウドへ持っていけるとは限りません。
作った会社と連絡が取れない場合の確かめ方は、システムを作った会社と連絡が取れないときに書きました。
IPAの手引きは、クラウドを選ぶときに、どの業務でどの情報を扱うかをはっきりさせること、扱う情報が漏れたり消えたり、サービスが止まったりしたときの影響を確かめることを、最初の確認として挙げています(前に
棚卸しの表に「止まったら
移し方は、そのまま移す・少し直して移す・作り直すの3つ
移し方は、大きく次の3つに分けて考えます。
AWSの移行の案内では、移行の戦略を7つに分け、そのうちの3つをリホスト(リフトアンドシフト)、
| 移し方 | すること | 向く場合 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| そのまま移す | 今のサーバーの中身を変えずに、クラウドの上の機械へ移す | 保守の期限が近い、早く社内の機械をなくしたい | 古い作りのまま移るので、OSの更新などの手間は残る |
| 少し直して移す | 作りの大部分は残し、データベースなど一部を、事業者が面倒を見るサービスに置き換える | データベースやOSの更新の手間を減らしたい | 置き換える部分の動きを、移す前に確かめる |
| 作り直す | クラウドの仕組みに合わせて、作りそのものを変える | 今の作りでは直しにくい、使い方が大きく変わる | 費用と期間がいちばんかかる。移すことと作り直すことを同時に進めることになる |
AWSの同じ案内は、そのまま移す形について、移している間もシステムを使い続けられ、止める時間は切り替えのやり方によって変わる、としています。
作り直す形については、移しながら作りを変えるのはもっとも複雑で、多くのシステムを一度に移すときには勧めず、まず移してから作りを直すことを勧めています。
この3つ以外に、移さない、やめる、という選択もあります。
棚卸しで見つけた、誰も使っていないソフトや機械は、移さずに止めます。
業務のやり方に合うクラウドのソフト(SaaS)が
その判断はSaaSか、オーダーメイドかに書きました。
私は、1つのシステムを1つの移し方で決めつけず、部分ごとに分けて考えます。
画面とデータはそのまま移し、毎晩の集計の処理だけ、呼ばれたときだけ動く仕組みに置き換える、といった分け方です。
サーバーを持たずに作る形は小さな会社の管理画面を、サーバーを持たずに作る構成にまとめています。
進め方は、試しに1つ移す、並べて動かす、切り替える、片づける
棚卸しが済んだら、次の順で進めます。
- 試しに1つ移す:止まっても困りにくいシステムを1つ選び、移す手順と、移したあとの動きを確かめる
- 並べて動かす:本番のシステムを新しい環境に用意し、古い環境と同じ結果になるかを比べる
- 切り替える:使う人の行き先を新しい環境に変える。決めた時間までに確かめが済まなければ、古い環境に戻す
- 片づける:しばらく様子を見てから、古い環境のデータを消し、契約を止める
最初の「試しに
つながっている先の見落とし、データを移すのにかかる時間、社内の回線の速さといった、表では分からないことが見つかります。
ここで分かった時間をもとに、本番の切り替えの日程を決めます。
並べて動かす間は、どちらが正しいデータを持っているかを、はっきりさせておきます。
両方に別々の入力が入ると、切り替えのときにどちらを正とするかで迷います。
データの持ち方と照らし合わせ方は、業務システムを入れ替えるときのデータ移行に詳しく書きました。
止めてはいけない業務は、切り替えの日と戻し方を先に決める
受注、請求、勤怠のように、止まると取引先やお客様、社員に響く業務は、次の3つを先に決めます。
- 止めてよい時間:何時から何時までなら、止まっても業務が回るか
- 戻す合図:何を確かめられなければ、古い環境に戻すか
- 戻す手順:誰が、何を切り替えれば、古い環境に戻るか
戻す手順は、古い環境を残しておかないと使えません。
片づけは、切り替えのあと、締めの処理を一度新しい環境で終えるなど、業務の山を1回越えてからにします。
IPAの手引きは、利用をやめるときに、全部のデータを返してもらえるか、ほかのサービスでも読める形か、残ったデータが消されるかを確かめるよう挙げています(前に
これは、クラウドへ移したあとに、また別の場所へ移すことになったときの備えにもなります。
契約の前に、データの取り出し方も確かめておきます。
費用は、移すための作業費と、移したあとの毎月の費用に分けて考える
クラウド移行の費用は、2つに分けて考えます。
| 分け方 | 中身 | いつかかるか |
|---|---|---|
| 移行の作業費 | 棚卸し、移し方の設計、試しの移行、データの移し替え、切り替えの立ち会い、古い環境の片づけ | 移すときに一度 |
| 移したあとの費用 | クラウドの利用料、監視やバックアップ、更新の作業、困ったときの対応 | 毎月 |
この2つを1つの金額で比べると、判断を誤ります。
作業費が小さくても毎月の費用がかさむ移し方もあれば、その逆もあります。
社内のサーバーの費用と比べるときは、機械の買い替えと保守の契約、置き場所や電気、社内の人が手で回している作業の時間まで含めて並べます。
何で費用が変わるか
どちらの費用も、主に次の4つで変わります。
| 変わる理由 | 移行の作業費への響き方 | 移したあとの費用への響き方 |
|---|---|---|
| 台数とシステムの数 | 移すものが多いほど、確かめる手間が増える | 動かす機械が多いほど、利用料と見張る手間が増える |
| データの量 | 移し替えと照らし合わせに時間がかかる | 置いておく量と、取り出す量で利用料が変わる |
| 止められる時間 | 短いほど、並べて動かす期間や、夜間・休日の作業が要る | 止まらない作り(機械を |
| つながっている先 | 先が多いほど、つなぎ直しと確かめが増える | 拠点との専用のつなぎなどを置くと、その分がかかる |
クラウドの利用料は、多くの場合、使った分だけ払う形です。
AWSの料金のページでは、大半のサービスに従量制の料金を使い、長期の契約は要らず、使うのをやめたときの解約の料金もないとしています。
同じページでは、AWSの中へデータを入れる転送は無料で、外へ出す転送は使う量に応じて段階的に料金が決まる、と説明しています(AWS:AWS の料金、2026年10月19日確認)。
社内から使うシステムを移すと、毎日の画面の表示やファイルの取り出しが「外へ
具体的な金額は、使うサービス、置く地域、使う量で変わり、事業者の料金も改定されます。
見積もりのときは、事業者の公式の料金の計算の道具に、棚卸しの表の台数とデータの量を入れて、月の目安を出します。
bundlyzeが受け持つ移行の作業費と運用の費用は、棚卸しの結果を見てからのお見積もりです。
IPAの説明資料は、クラウドの使用料が、利用量の異常な増加や意図しない増加で急に増えることを、気をつけることの1つに挙げています(前に
移したあとに費用を見張る仕組みは、移す前に決めておきます。
移したあとに、続けること
移して終わりではありません。
私は、次の4つを、移す前の計画の中に入れておきます。
- 監視:止まったとき、遅くなったときに、誰に通知が届くか。夜中や休みの日に届いたら、誰が見るか
- バックアップ:何を、どれくらいの間隔で、何世代残すか。戻せるかを決まった時期に試す
- 権限:誰がどこまで操作できるか。辞めた人や外の会社のアカウントを、いつ止めるか
- 費用の見直し:月ごとの予算と、超えそうなときの通知。使っていない機械が残っていないか
IPAの手引きは、クラウドの安全はサービスの事業者と使う側が役割と責任を分けて保つものだとし、使う側がすることとして、管理の担当者を決めること、使う人の範囲を決めること、パスワードの共有をせず2段階認証などを使うこと、バックアップに責任を持つことを挙げています。
バックアップについては、前の月の分だけでなく、2か月前、3か月前のように、さかのぼって戻せるよう複数の世代を残す例が書かれています(前に
クラウドに移したからといって、バックアップを事業者が全部引き受けてくれるわけではありません。
どこまでが事業者の受け持ちかは、使うサービスの利用規約で確かめます。
費用の見直しの具体的なやり方は、業務システムの運用コストを下げるに書きました。
移したあとの保守を外に頼むときに決めておくことは、システムの保守契約で確かめることにまとめています。
私がクラウド移行の相談で最初に聞くこと
bundlyzeは業務システムを受託で開発していて、受託で培った技術で自社のサービスも開発し、運用しています。
自社のドメインでも、wwwなしの名前の証明書が自動で更新されない形だったものを、自動で更新される配信の仕組みへ移しました。
その手順はSSL証明書の期限切れ。
切れたときの直し方と、自動で更新される仕組みへの移し方に書いています。
移す作業そのものより、何がどこにつながっているかを確かめる準備のほうに時間がかかる、というのが、自分で移してみての実感です。
クラウド移行の相談で、私が最初に聞くのは、今のサーバーの保守の期限がいつかと、いちばん止めてはいけない業務は何か、の2つです。
期限から逆算すると、試しに1つ移す時間と、並べて動かす時間がどれくらい取れるかが決まります。
止めてはいけない業務が分かると、どのシステムを最後に回すかが決まります。
よくある質問
クラウド移行とは何ですか?
オンプレミスからクラウドへ移すとき、最初に何をすればいいですか?
そのまま移すのと、作り直すのは、どちらがよいですか?
サーバーの移行の費用は、何で決まりますか?
移す間、業務を止めずに済みますか?
クラウドに移せば、バックアップは事業者に任せられますか?
bundlyzeは大阪市北区のグラングリーン大阪を拠点に、業務システムの開発と、クラウドの構成の整理・移行・運用の整備を受け持っています。
全国からご相談いただけます。
打ち合わせはWeb会議でも、対面でも可能です。
この記事を書いた津嘉山は、業務システム開発とAWSを専門とするエンジニアで、業務システムの要件定義から開発、保守運用までを経験しています。
移す予定がまだ先でも、今のサーバーの保守の期限と、そこで動いているものを1枚に書き出しておくと、いざ移すときの最初の材料になります。
サーバーやクラウドの運用について、
いまの状況をお聞かせください
「何から
相談の前に、いまの見え方だけ知りたい場合は
4つのAIに10の質問をした記録と、サイトの点検の結果を、30分ほどでご説明します。費用はかかりません。