この記事の結論
見積書や提案書、取引先へのメールの下書きは、生成AIに手伝わせやすい仕事です。ただし、社外に出る書類なので、決めておくことがあります。AIに任せるのは、文章の組み立てと言い回しまで。金額、数量、日付などの数字、社名や人名、商品名などの固有名詞、納期や保証などの約束事項は、元の資料と照らして人が確かめます。お客様の個人情報や取引先から預かった資料は、会社が使ってよいと決めたサービスと設定でなければ入力しません。頼み方は、目的、渡す材料、条件、出力の形の4項目の型にしておき、確かめる人と一緒に、社内の決まりにします。
社外に出る書類だからこそ、決めておく
提案書の構成を考える、見積書に添える説明文を書く、取引先へのお詫びやお礼のメールを整える。こうした文章の下書きは、生成AIに手伝わせやすい仕事です。白紙から書き始めるより、AIが作った下書きを直すほうが、取りかかりやすくなります。
一方で、見積書や提案書、取引先へのメールには、社内の文章にはない特徴があります。
- 相手の会社に届き、そのまま記録として残る
- 金額、納期、条件など、会社としての約束が書かれる
- 相手の社名、担当者の名前、相手から聞いた事情など、取引先の情報が入る
- 誤りがあっても、送った後では取り消せない
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIを業務で使う側に、AIの出力について精度とリスクの程度を理解したうえで使うこと、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うこと、AIを提供する事業者が定めた規約を守ることを求めています(総務省:AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(PDF)、2026-10-03 確認)。
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版も、生成AIを使うときの注意として、利用規約やプライバシーポリシーを先に確かめること、外に漏れると問題になる情報を入力しないこと、生成されたものは必ず人が確かめること、出力をそのまま業務で使わず補助の道具として使うことを挙げています(IPA:中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン、2026-10-03 確認)。
この記事では、この考え方を、見積書、提案書、メールの3つの書類に当てはめて整理します。会社全体の生成AIのルールの作り方は、生成AIを社内で使うときのルールの作り方にまとめています。
AIに任せやすい部分と、任せにくい部分
同じ書類の中でも、AIに任せやすい部分と、人が書くべき部分があります。目安は、「間違っていても、読めばすぐ気づけるか」と「会社としての約束になるか」の2つです。
| 書類 | AIに任せやすい部分 | 人が決めて書く部分 |
|---|---|---|
| 提案書 | 構成案、見出し、課題と進め方の説明の言い回し、読み手に合わせた言い換え | 提案の中身、体制、スケジュール、費用、実績として書くこと |
| 見積書 | 項目の説明文、前提条件の書き方の整理、送付の添え状 | 単価、数量、合計、税、有効期限、支払い条件、含まないもの |
| メール | 書き出しと結びの言い回し、長い文章の整理、丁寧さの調整、返信の下書き | 宛先、日時、金額、約束すること、お詫びの範囲 |
見積書の数字そのものは、AIに計算させるより、表計算や見積もりのシステムで出すほうが確実です。AIには、出した数字を前提にした説明文や、添え状を手伝わせます。
AIに任せにくいのは、会社として判断が要る部分です。値引きに応じるか、納期を早められるか、トラブルの責任をどこまで認めるか。こうした判断をAIの下書きに任せると、決めていない約束が、もっともらしい文章になって相手に届きます。
人が必ず確かめる4つのこと
生成AIの文章は読みやすいぶん、誤りがあっても気づきにくくなります。Microsoft も、生成AIの応答は100%事実である保証はなく、ほかの人に送る前に、使う人が判断して確かめる必要があると説明しています(Microsoft Learn:Microsoft Copilot のデータ、プライバシー、セキュリティ、2026-10-03 確認)。
社外に出す書類では、次の4つを、元の資料と照らして確かめます。
| 確かめること | 起こりうる誤り | 照らし合わせる先 |
|---|---|---|
| 金額と数字 | 単価や数量の取り違え、合計の誤り、税込みと税抜きの混同、日付や曜日のずれ | 見積もりの元の表、社内のシステム、カレンダー |
| 固有名詞 | 相手の社名や部署名、担当者の名前の誤り、商品名や型番の取り違え | 名刺、契約書、相手からのメール、自社の商品の一覧 |
| 約束事項 | 決めていない納期、保証、無償の対応、返品や解約の条件が書かれている | 社内で決めた条件、契約書、上長の判断 |
| 渡していない内容 | 材料になかった実績、根拠のない数字、存在しない制度や規格の名前 | AIに渡した材料。入っていなければ消すか、確かめてから書く |
4つ目は見落としやすい部分です。AIは、文章を自然につなげるために、渡していない内容を書き足すことがあります。提案書なら、自社にない実績や、確かめていない効果の数字が入っていないかを見ます。
AI事業者ガイドラインは、人がAIの出力を過度に信頼してしまう「自動化バイアス」に注意を促し、その対策の例として、AIの判断を人が承認するときは、承認する理由や根拠を自分で考えてから承認することを挙げています。下書きを読んで「よさそう」と思ったら、その根拠を元の資料で1つずつ確かめる、という順番を決めておきます。
確かめる人は、できれば書いた人とは別の人にします。とくに見積書と、約束事項が入る提案書は、金額と条件を決めた人が最後に読むと決めておくと、AIの下書きであっても、会社として出す書類の確認の流れは変わりません。
入力しないもの、入力してよい条件
下書きを作るとき、いちばん迷うのが「どこまでAIに渡してよいか」です。
個人情報は、サービスの扱いを確かめてから
個人情報保護委員会は、事業者が生成AIのサービスに個人情報を含む指示を入力する場合は、利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確かめるよう注意を呼びかけています。また、本人の同意なく個人データを含む指示を入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反することになる可能性があるとして、サービスを提供する事業者が、その個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう求めています(個人情報保護委員会:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について、2026-10-03 確認)。
メールの返信を手伝わせようとして、相手からのメールを署名ごと貼り付けると、氏名、電話番号、メールアドレスがそのまま入ります。下書きに必要なのは、多くの場合、相手の名前ではなく、問い合わせの内容です。
会社で契約したサービスと、個人向けのサービスは扱いが違う
入力した内容の扱いは、サービスとプランによって違います。
| サービスの種類 | 公式の説明で確かめられたこと |
|---|---|
| Microsoft の法人向けの Copilot | 入力、応答、Microsoft Graph 経由で読み込まれたデータは、基盤となる大規模言語モデルの学習に使われない。表示されるのは、その人が少なくとも閲覧の権限を持つ組織のデータだけ |
| Google Workspace の生成AI | 個人データや業務のデータは、人がレビューすることも、許可なく組織の外で生成AIのモデルの学習に使われることもない。Gemini は、使う人がアクセスできるデータだけを取得する |
| Google の Gemini アプリ(個人のアカウント) | 「アクティビティの保存」がオフでも、チャットは72時間アカウントに保持される。人のレビュアーに見られたくない機密情報は入力しないよう案内している。仕事用や学校用のアカウントでは、別の規約が適用される場合がある |
出典:Microsoft Learn:Microsoft Copilot のデータ、プライバシー、セキュリティ、Google Workspace:生成AIとプライバシー、Gemini アプリ ヘルプ:Gemini アプリのプライバシー ハブ(いずれも 2026-10-03 確認)。扱いは変わることがあるので、使う前に公式で最新を確認してください。
社員が個人のアカウントで、会社の書類の下書きを作っていると、こうした設定は会社から見えません。見積書や提案書に使ってよいのは、会社が決めたサービスと設定だけ、と決めておきます。
原則として入力しないもの
会社で契約したサービスであっても、次のものは、下書きの材料として渡さないと決めておくと迷いません。
- 相手の個人情報。 氏名、電話番号、メールアドレス、住所。下書きでは「お客様」「ご担当者様」と置き換え、送る前に人が書き戻す
- 取引先から預かった資料。 秘密保持の契約を結んでいる相手の資料、図面、価格表。契約で扱いが決まっているものは、契約を確かめるまで入れない
- 他社の提案書や見積書。 手元にあっても、そのまま渡して似たものを作らせない
- 社内の秘密。 原価、利益率、未公表の計画、人事の情報
- ログインの情報。 パスワード、アクセス用の鍵。メールの本文や署名に紛れていないかも見る
3つ目は、著作権の面からも気をつけたい点です。文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」は、AIで作ったものを使う前に、既存の著作物と似ていないかを、インターネット検索などで確かめることが必要だとしています。既存の著作物そのものを指示として入力した場合は、似たものができたときに、元の著作物に依拠したと認められやすくなるとも説明しています(文化庁:AIと著作権について、2026-10-03 確認)。
どこから情報が漏れうるかは、ChatGPTの情報漏洩は、どこから起きるのかに整理しています。
頼み方の型は、4つの項目で作る
毎回ゼロから頼み方を考えると、渡す材料も、確かめる場所も、人によってばらばらになります。書類ごとに、頼み方の型を1つ作っておきます。
| 項目 | 書くこと | 例(見積書に添えるメール) |
|---|---|---|
| 目的 | 何のための文章か、読む人は誰か | 依頼された作業の見積書を送る。読む人は取引先の担当者 |
| 渡す材料 | AIに渡してよい情報だけ | 作業の内容、見積書を添付していること、前提条件の要点。社名と名前は入れない |
| 条件 | 守ってほしいこと | です・ます調、5行程度、金額と日付は書かず「添付のとおり」とする |
| 出力の形 | どんな形で返してほしいか | 件名と本文に分け、相手の社名と名前は【相手】と空けておく |
型に入れておくと役に立つのが、「数字と固有名詞は書かずに空けておく」という条件です。金額や日付、社名を空欄にさせておけば、AIが誤った数字を書き込むことがなく、人が元の資料から書き入れる手順が自然にできます。
提案書なら、型の「渡す材料」に、相手から聞いた課題、自社で決めた進め方、決まっている範囲を書き、「渡した材料にないことは書かず、足りない情報は質問として一覧にする」という条件を加えます。足りない情報を、AIに推測で埋めさせないための一文です。
型の作り方や、社員への教え方は、生成AIの社内研修は、何から教えるかにもまとめています。
社内の決まりにする
型を作った人だけが使っていると、確かめ方や入力しないものの判断が、人によって変わります。書類の下書きにAIを使うなら、次の5つを、社内の決まりとして1枚にまとめておきます。
- 使ってよいサービスと設定。 会社で契約したもの、会社のアカウントで使うもの
- AIに手伝わせてよい書類と部分。 上の表のように、書類ごとに任せる部分と人が書く部分を分けておく
- 入力しないもの。 個人情報、預かった資料、他社の書類、社内の秘密、ログインの情報
- 確かめる人と、確かめること。 金額と数字、固有名詞、約束事項、渡していない内容の4つを、誰が見るか
- 型の置き場所。 書類ごとの頼み方の型を1か所に集め、それぞれに「どこを確かめるか」を添える
文化庁のチェックリストは、AIで作ったものを使うときに、生成に使った指示などを、後から確かめられる状態にしておくことも勧めています。提案書のように後で説明を求められうる書類は、どの型で、どんな材料を渡したかが分かるようにしておくと、確かめる人も見やすくなります。
決まりは、使いながら直していきます。確かめる段階で見つかった誤りを書き留めておくと、どの型のどこを直せばよいかが見えてきます。
私たちが社内で守っている決まり
bundlyzeでは、経理や勤怠、インフラなど社内の業務の一部をAIとプログラムで自動化していますが、パスワードやシステムの鍵のような秘密の情報は、ソースコードやAIとのやり取りに書かず、決まった保管場所にだけ置く決まりにしています。
書類の下書きでも考え方は同じです。AIに渡すのは文章を組み立てるための材料だけにして、数字や名前、ログインの情報のように、間違えたり漏れたりすると困るものは、人が元の場所から書き入れる。この分け方にしておくと、どこを確かめればよいかもはっきりします。
私たちは大阪のグラングリーン大阪を拠点に、関西を中心に、全国のお客様とオンラインで進めています。AI導入支援では、対象の業務の整理から、小さな試作、出力の確認、ツールとの連携、社内のルールと定着までを段階に分けて進めます。見積もりや受注の管理をしている業務システムと、書類の下書きをつなぐ仕組みも、同じ会社で検討できます。進め方は、AI導入支援・業務効率化のサービスにまとめています。どの業務からAIを試すかは、AIで業務効率化するなら、どの業務から始めるかも参考にしてください。
よくある質問
見積書の金額の計算を、生成AIに任せてもいいですか?
取引先からのメールを貼り付けて、返信の下書きを作ってもいいですか?
AIが作った提案書を、そのまま相手に出してもいいですか?
まず、メールの型を1つ作る
始めるなら、毎週のように書いている取引先へのメールを1種類選んでください。目的、渡す材料、条件、出力の形の4項目で型を作り、金額と日付と相手の名前は空けておく。送る前に、誰が何を確かめるかを決める。1つ型ができると、見積書の添え状や提案書の構成にも、同じ考え方で広げられます。
ご相談
AIの活用について、いまの状況をお聞かせください。
「何から手をつければいいか分からない」という段階からで構いません。返信は担当者が直接お送りします。